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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)1554号 判決

第一五五四号事件控訴人(第一審原告と略称)

第一五七〇号事件被控訴人 堀井美佐子 外二名

第一五五四号事件被控訴人(第一審被告と略称)

第一五七〇号事件控訴人 都島自動車株式会社

主文

(一)  原判決中、一審原告ら敗訴部分を取り消す。

(二)  一審被告は、一審原告らに対し、各金七九、二〇五円とこれに対する昭和三〇年九月一二日から支払済みまで年五分の割合いによる金員を支払え。

(三)  昭和三五年(ネ)第一五七〇号事件の控訴を棄却する。

(四)  第一審訴訟費用中、一審原告らと一審被告との間に生じた分、昭和三五年(ネ)第一五五四号、同年(ネ)第一五七〇号の各控訴事件の控訴費用はいずれも一審被告の負担とする。

(五)  この判決の第二項は、一審原告らにおいて、各金一五、〇〇〇円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。

事実

一審原告ら代理人は、昭和三五年(ネ)第一五五四号事件について、主文第一、二項同旨と訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする、との判決と、担保を条件とする仮執行の宣言とを求め、同年(ネ)第一五七〇号事件について、主文第三項同旨と控訴費用は一審被告の負担とする、との判決を求めた。

一審被告代理人は、同年(ネ)第一五五四号事件について、「本件控訴を棄却する。控訴費用は一審原告らの負担とする」との判決を、同年(ネ)第一五七〇号事件について、「原判決中、一審被告敗訴部分を取り消す。一審原告らの一審被告に対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも一審原告らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否は、一審原告ら代理人において次のとおり陳述したほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一審原告ら代理人の主張

将来の長期の継続的年収の現在価額を算出するのにホフマン式計算法による場合、別紙記載の(1) 、(2) の二つの数式が考えられる。そして、長期の継続的年収の現在価額を別紙(1) の数式により算出するときは、その結果は不当に少額となる。長期の継続的年収の現在価額を算出するには、各年の年収について、その中間利息を控除して各年収の現在価額をまず算出し、その総和を求ある方法である別紙(2) の数式によるのが正当である。本件被害者亡堀井利積の蒙つた財産上の損害(得べかりし利益の損失)について、右(2) の数式に、利積が得る一年間の純益二八、五九九円ならぴに労働可能年数四〇年をあてはめ、右財産上の損害の現在価額を算出すると、金六一八、九三五円となる。一審原告らは、被害者利積の相続人として、それぞれ三分の一の相続分を有するから、同人らは各金二〇六、三一二円の損害賠償債権を相続により取得した。そして、これに慰謝料債権各金一〇〇、〇〇〇円を加算すると、一審原告らは、一審被告に対し、各金三〇六、三一二円の損害賠償債権を有する。よつて、一審原告らが各一審被告に対し有する右損害賠償債権と原審の認容額との差額金七九、二〇五円とこれに対する昭和三〇年九月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

理由

原判決理由の第二のうち、利積の蒙つた財産上の損害の現在価額をホフマン式計算法により算出する部分(原判決九枚目裏七行目下から三字目「従つて」から同九枚目裏一二行目上から一三字目「………財産上の損害と認められる。」まで)を次の一のとおり訂正し、原判決一〇枚目表二行目上から八字目以下( )内の金一二七、一〇七円を次の二のとおり訂正するほか、その余の個所に認定説示するところをここに引用する。

一、将来の一年ごとに発生する年金的利益の現在価額をホフマン式計算法により中間利息を控除して算出するのに一般に行なわれている方法として別紙記載(1) (2) の二つの計算方法がある。

(1)の計算方法は、(原審もこれによつているし、また、これによつた前例も多い)年金的利益の総額を最終期の期末に一時に発生するものとみなして、右総額より、これに対する総期間の中間利息を控除して現在価額を算出する方法である。その結果、この方法を毎期末ごとに発生する利益の現在価額の総和を求める場合に適用すると、最終期末に発生する利益を除き、その余の各期末に発生する利益については、不当に中間利息を引きすぎることになる。したがつて、得られた現在価額は、不当に小さくなる。ところが(2) の計算方法は、期末ごとに発生する各利益について、それぞれ、現在価額の評価時点からその利益の発生時点までの中間利息を控除してその各現在価額を求め、それらを総計して、総年金的利益の現在価額を算出する方法である。現在から一定期間後に発生する利益額の現在価額を一定の利率を用い、ホフマン式計算法により中間利息を差し引いて求めるというのは、この利益額からその現在価額に対する、この一定期間中の、一定の利率による単利利息を差し引いたものが、その現在価額に等しくなるように現在価額を定めるということを意味する。換言すれば、求める現在価額を一定の利率により、一定期間だけ単利で利殖したときの元利合計が丁度この利益額に等しくなるように現在価額を定めることを意味する。そうだとすれば、右(1) の計算方法によることは、違法不当の誤りを犯すもので許されず、(2) の計算方法によるべきである。ただ、この場合、(2) の計算方法の( )内の計算は、従来、複雑、困難であつたのであるが、これには、すでに発表されている法定利率による単利年金現価率表(法曹時報一一巻二号四八頁等)がある。よつて、これを用いることによつて問題は解消した。そこで、右(2) の計算方法により本件損害賠償の額を算出する。すると、前認定(原判決引用)の利積の一年間の総収益金七六、六六六円六六銭(堀井家の一年間の総収入金二三〇、〇〇〇円の三分の一)から、その生計費金四八、〇六八円(原判決引用)を控除すれば、利積の一年間の純益は、金二八、五九八円六六銭となり、同人の労働可能年数が四〇年であることは前認定(原判決引用)のとおりであるから、利積は、将来四〇年間にわたつて毎年金二八、五九八円六六銭の年金的利益を喪失したことになる。そこで、右年金的利益の現在価額を求めるため、法定利率年五分の割合いで中間利息を控除すると、金六一八、九四九円となること計数上明らかであつて(別紙(3) の数式)、右金額が利積の本件事故より失つた財産上の損害と認められる。

二、二〇六、三一六円

結論、

したがつて、一審被告は、一審各原告らに対し、不法行為者古賀優の使用者として、各財産上の損害金二〇六、三一六円と慰謝料金一〇〇、〇〇〇円の合計金三〇六、三一六円とこれに対する本件不法行為時である昭和二八年一一月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合いによる遅延損害金を支払う義務がある。

そうすると、原判決が、一審原告らの各請求のうち、各金二二七、一〇七円とこれに対する昭和三〇年九月一二日から支払済みまで年五分の割合いによる金員の支払いを求める部分をこえる部分を棄却したのは、失当であるから、右一審原告ら敗訴部分を取り消し、一審原告らが、一審被告に対し、前記認定の一審被告の支払義務と原審の右認容額との差額である各金七九、二〇五円とこれに対する昭和三〇年九月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合いによる遅延損害金の支払いを求める本訴請求は正当であるからこれを認容する。また、原判決が、前記のとおり、一審原告らの請求を認容した部分は正当であるから、これに対する一審被告の昭和三五年(ネ)第一五七〇号事件の控訴は理由がない。

よつて、民事訴訟法第三八六条、第三八四条、第九五条、第九六条、第八九条、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平峯隆 大江健次郎 北後陽三)

別紙

X=債権の現在価額

N=年数

A=年収(年金的利益額)

(1) X=A×N/(1+0.05×N)

(2) X=A/(1+0.05×1)+A/(1+0.05×2)+……+A/(1+0.05×N)

=A×(1/(1+0.05×1)+1/(1+0.05×2)+……+1/(1+0.05×N))

(3) 230,000円〔堀井家一年間の総収入〕÷3 = 76,666円66銭〔利積の一年間の総収益〕……

76,666円66銭-48,068円〔利積の一年間の生計費〕= 28,598円66銭〔利積の一年間の純益〕

28,598円66×21.64261512〔利率5%年数40の単利年金現価率〕= 618,949円7913277392

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